2026年度からの強制適用が予定されている「新リース会計基準」について、「何が変わり、実務で何をすべきか」を網羅的に解説します。本記事を読めば、新基準の概要や改正の背景から、具体的な会計処理、仕訳例、開示内容、実務への影響まで、経理・財務担当者の方が知りたい情報をすべて理解できます。今回の改正の核心は、国際的な会計基準であるIFRS第16号との整合性を図り、これまでオフバランス処理が可能だったオペレーティング・リースを含め、原則すべてのリース契約を資産・負債として貸借対照表に計上(オンバランス化)する点にあります。この記事では、借手の「使用権資産」と「リース負債」の計上方法はもちろん、貸手の会計処理、短期リースや少額リースといった簡便的な取扱い、適用初年度の経過措置まで、実務担当者が押さえるべきポイントを徹底的に掘り下げます。
新リース会計基準とは 概要と改正の背景
2026年4月1日から本格的に適用が開始される「新リース会計基準」。これは、企業会計基準委員会(ASBJ)が公表した公開草案「リースに関する会計基準(案)」などを指し、日本のリース取引に関する会計処理を大きく変えるものです。これまで多くの企業で費用処理(オフバランス)されてきたオペレーティング・リースが、原則として資産・負債として貸借対照表(B/S)に計上(オンバランス)されることになります。本章では、この新リース会計基準の概要と、なぜ今、会計基準が改正されるのか、その背景を詳しく解説します。
なぜリース会計基準は改正されたのか
今回のリース会計基準の改正には、大きく分けて2つの理由があります。それは「会計基準の国際的なコンバージェンス(収斂)」と「財務諸表の透明性向上」です。
第一に、IFRS(国際財務報告基準)や米国会計基準では、すでに同様のリース会計基準が導入されており、グローバルな比較可能性を確保する必要がありました。海外に子会社を持つ企業や海外投資家からの資金調達を行う企業にとって、各国の会計基準が異なると、財務諸表を単純に比較できず、企業価値の正当な評価が困難になります。この差異を解消し、国際的な整合性を図ることが改正の大きな動機です。
第二に、従来の会計処理では、特にオペレーティング・リースが貸借対照表に計上されない「オフバランス取引」であったため、投資家が企業の負債の実態を正確に把握しにくいという問題がありました。例えば、航空会社が航空機を、小売業が店舗を大規模なオペレーティング・リースで調達していても、その契約に基づく将来の支払義務は貸借対照表には現れませんでした。新基準は、こうした簿外のリース債務を可視化し、財務諸表の透明性を高めることを目的としています。
新リース会計基準の核心 すべてのリースを原則オンバランス化
新リース会計基準の最も重要な変更点は、借手において、これまでオフバランス処理が可能だったオペレーティング・リースを含め、原則としてすべてのリースを資産・負債として貸借対照表に計上する「オンバランス化」が求められる点です。
具体的には、借手はリース契約に基づき資産を使用する権利を「使用権資産」として資産計上し、将来のリース料支払義務を「リース負債」として負債計上します。これにより、従来の会計処理と比べて企業の資産と負債がともに増加することになります。以下の表で、従来の会計処理との違いを確認してみましょう。
| 取引区分 | 従来の会計処理 | 新リース会計基準 |
|---|---|---|
| ファイナンス・リース | オンバランス(リース資産・リース債務を計上) | オンバランス(使用権資産・リース負債を計上) |
| オペレーティング・リース | オフバランス(支払リース料を費用処理) | オンバランス(使用権資産・リース負債を計上) |
この変更により、企業の財政状態を示す自己資本比率や負債比率といった経営指標に大きな影響が及ぶ可能性があります。
IFRS第16号と日本の新基準の関係
日本の新リース会計基準は、国際的な会計基準であるIFRS第16号「リース」の内容を基礎として開発されました。これは、前述の通り、会計基準の国際的なコンバージェンスを目的としているためです。
IFRS第16号は、借手の会計処理について、ファイナンス・リースとオペレーティング・リースの区別を撤廃し、すべてのリースをオンバランス化する「単一の会計モデル」を採用しています。日本の新基準も、この考え方を基本的に踏襲しています。
ただし、日本の新基準はIFRS第16号を完全に同一の内容で導入するわけではありません。日本の会計実務に配慮し、例えば「短期リース」や「少額リース」に関する簡便的な取扱いなど、一部で独自の定めが設けられる見込みです。また、貸手側の会計処理については、従来からのファイナンス・リースとオペレーティング・リースの分類が維持されるなど、IFRS第16号とは異なる部分も存在します。
新リース会計基準の適用時期はいつからか
2023年5月に公開草案が公表された新リース会計基準は、企業の財務諸表に大きな影響を与えるため、いつから適用されるのかは経理担当者にとって最大の関心事の一つです。ここでは、原則的な適用開始日と、早期適用する場合の要件について詳しく解説します。
原則的な適用開始日
日本の新リース会計基準は、2026年4月1日以後開始する連結会計年度及び事業年度の期首から強制適用される予定です。つまり、多くの日本企業が採用している3月決算の会社であれば、2027年3月期の年度から適用が開始されることになります。
具体的な適用開始時期は、企業の決算日によって異なります。以下の表で、主要な決算期ごとの適用開始年度を確認しましょう。
| 決算期 | 原則的な適用が開始される事業年度 |
|---|---|
| 3月31日決算の企業 | 2027年3月期(2026年4月1日~2027年3月31日) |
| 12月31日決算の企業 | 2026年12月期(2026年1月1日~2026年12月31日)※ |
| 6月30日決算の企業 | 2027年6月期(2026年7月1日~2027年6月30日) |
※12月決算企業の場合、2026年1月1日から始まる事業年度は「2026年4月1日以後」に開始する事業年度には該当しないため、適用開始は翌年の2027年12月期からとなります。このように、自社の事業年度開始日を正確に確認することが重要です。
また、この基準は年次財務諸表だけでなく、四半期財務諸表にも適用されます。したがって、適用初年度の第1四半期会計期間の期首から会計処理の変更が必要となる点に注意が必要です。
早期適用の要件と手続き
新リース会計基準では、原則適用の前に基準を任意で適用する「早期適用」も認められています。具体的には、2024年4月1日以後開始する連結会計年度及び事業年度の期首から早期適用が可能です。
例えば、3月決算企業であれば、2025年3月期(2024年4月1日開始年度)から適用することができます。早期適用を選択する背景には、IFRS(国際財務報告基準)第16号をすでに適用している海外子会社との会計方針を統一したい、グローバルな投資家への情報提供を充実させたい、といった企業の戦略的な判断が考えられます。
早期適用を検討する際には、以下の点に留意する必要があります。
- 適用時期の統一:連結財務諸表で早期適用する場合、個別財務諸表においても同時に適用する必要があります。その逆も同様で、連結と個別の適用タイミングをずらすことは認められません。
- 継続適用の原則:一度早期適用を選択した場合、正当な理由がない限り、その後の会計年度においても継続して新基準を適用し続けなければなりません。
- 開示の準備:早期適用する場合、その旨と適用初年度における影響額などを会計方針の変更として注記する必要があります。社内での準備はもちろん、監査法人との協議も不可欠です。
早期適用を行うかどうかは、自社の経営環境、システム対応の進捗状況、人的リソースなどを総合的に勘案し、慎重に判断することが求められます。
新リース会計基準におけるリースの定義
新リース会計基準を理解する上で、最も根幹となるのが「リースの定義」そのものです。なぜなら、従来の会計基準ではオフバランス処理が可能だったオペレーティング・リースが、新基準では原則として資産・負債計上(オンバランス化)の対象となるため、「そもそも、その契約がリースに該当するのか」という最初の判断が、財務諸表に与える影響を大きく左右するからです。ここでは、新基準におけるリースの定義と、実務で迷いやすいサービス契約との違いを明確に解説します。
リースに該当する契約の識別方法
日本の新リース会計基準(企業会計基準適用指針第31号「リースに関する会計基準の適用指針」の設例などで示される考え方)は、IFRS第16号「リース」の定義を基礎としています。新基準では、リースを「合意された期間にわたり、識別された資産の使用を支配する権利と交換に、対価を支払う契約または契約の一部分」と定義しています。この定義に基づき、ある契約がリースに該当するかどうかは、以下の3つのステップで判断します。
- 識別された資産の存在
契約の対象となる特定の資産が存在するかどうかを判断します。資産は、契約書で型番や製造番号などによって明示的に特定される場合もあれば、物理的に区別されているなどの状況から黙示的に特定される場合もあります。ここで重要なのは、供給者(貸手)がその資産を他の資産と入れ替える実質的な権利を有していないことです。供給者がいつでも自由に同等の別の資産と入れ替えられる場合、借手は特定の資産を支配しているとは言えず、リースには該当しません。 - 経済的便益の獲得
借手が、識別された資産の使用から生じる経済的便益の「実質的にすべて」を享受する権利を有しているかどうかが問われます。経済的便益とは、その資産を直接使用することによる利益や生産物、または第三者に再リースすることによるキャッシュ・フローなどを指します。 - 使用の支配(使用を指図する権利)
借手が、識別された資産の使用方法および使用目的を指図する権利を有しているかどうかが、最も重要な判断要素の一つです。つまり、資産を「いつ」「何のために」「どのように」使用するかを決定する権利が借手にあるかがポイントとなります。供給者が資産の稼働に関わる重要な意思決定を行う場合、借手は使用を支配しているとは言えません。
これらの3つの要件をすべて満たす契約が、新リース会計基準における「リース」に該当し、原則として使用権資産とリース負債を計上する必要があります。
実務上の判断ポイント リースとサービス契約の違い
実務上、最も判断に迷うのが「リース契約」と、備品の保守やアウトソーシングといった「サービス契約」との区別です。契約書に「リース」という文言がなくとも、実質的にリースの要件を満たしていれば会計処理の対象となります。逆に「賃貸借契約」とあっても、実質がサービスの提供であれば対象外です。両者の違いを判断するためのポイントを以下に整理します。
| 判断要素 | リース契約に該当する可能性が高いケース | サービス契約に該当する可能性が高いケース |
|---|---|---|
| 資産の特定性 | 契約書で特定の車両番号や機械の製造番号が指定されている。 | 契約期間中、供給者の都合で同等の他の車両や機械にいつでも変更されうる。 |
| 使用の指図権 | 借手が自社の都合で自由にコピー機を使用できる(何を、いつ、どれだけ印刷するかを決定できる)。 | 印刷業務を外部業者に委託し、業者が自社の設備と人員で印刷サービスを提供する(業者が設備の稼働を決定)。 |
| 経済的便益 | 倉庫スペースを借り、そのスペースから得られる保管料収入などの便益をすべて借手が享受する。 | 倉庫業者に商品の保管・入出庫業務を委託する。スペースの効率的な利用方法は倉庫業者が決定する。 |
| 契約の実質 | 「特定の資産を使用する権利」の対価を支払っている。 | 「特定の業務や役務の提供」という成果物に対して対価を支払っている。 |
このように、契約の名称や形式ではなく、その経済的実質に着目することが極めて重要です。特に、IT関連のアウトソーシング契約や物流サービス契約、特定の設備を含む保守契約などは、契約内容を詳細に検討し、資産の支配権がどちらにあるのかを慎重に見極める必要があります。
【借手】新リース会計基準の会計処理と仕訳例
新リース会計基準の最も大きな変更点は、借手側の会計処理にあります。これまでのオペレーティング・リースのように費用処理するのではなく、原則としてすべてのリース契約を資産・負債として貸借対照表(B/S)に計上(オンバランス)することになりました。ここでは、具体的な会計処理の流れと仕訳例を詳しく解説します。
使用権資産とリース負債の計上
リース期間の開始日に、借手は「使用権資産」と「リース負債」を同額で計上します。これは、リース契約によって「資産を使用する権利」と「リース料を支払う義務」が同時に発生したと捉えるためです。それぞれの算定方法は以下の通りです。
使用権資産の算定方法
使用権資産は、リース負債の当初測定額に、リース契約に関連して発生した初期費用などを加減算して算定します。具体的には、以下の要素で構成されます。
- リース負債の当初測定額
- リース開始日またはそれ以前に支払ったリース料(前払リース料など)
- 借手が負担した付随費用(仲介手数料など)
- 原状回復義務にかかる資産除去債務
なお、貸手から受け取ったリース・インセンティブ(契約締結の誘因として受け取る金銭など)は、使用権資産の価額から控除します。
リース負債の算定方法
リース負債は、リース期間にわたって支払うリース料総額を、一定の割引率で割り引いた現在価値として算定します。この計算に用いる割引率は、原則として「貸手の計算に用いられている利率(追加借入利子率)」を使用しますが、これが不明な場合は「借手の追加借入利子率」を使用します。
リース期間中の会計処理 減価償却と支払利息
リース開始後に計上した使用権資産とリース負債は、それぞれ決算期ごとに会計処理が必要です。
使用権資産:原則として、リース期間を耐用年数として減価償却を行います。定額法や定率法など、その資産の経済的便益の消費パターンを反映する方法で償却します。
リース負債:リース料の支払額は、利息部分と元本返済部分に分けられます。支払利息を費用として計上し、残額をリース負債の元本返済として負債を減額させていきます。
具体的な仕訳例で理解を深める
以下の条件でリース契約を締結した場合の仕訳例を見ていきましょう。
- リース期間:3年
- 年間リース料:100万円(毎年期末払い)
- 割引率:3%
- リース資産の減価償却方法:定額法(残存価額ゼロ)
この場合、リース負債および使用権資産の当初計上額は、リース料総額の現在価値である2,828,611円となります。
【1. リース開始日の仕訳】
| 借方 | 金額 | 貸方 | 金額 |
|---|---|---|---|
| 使用権資産 | 2,828,611 | リース負債 | 2,828,611 |
【2. 1年目期末の仕訳】
まず、リース負債に対する支払利息と、使用権資産の減価償却費を計上します。
- 支払利息:2,828,611円 × 3% = 84,858円
- 減価償却費:2,828,611円 ÷ 3年 = 942,870円
| 借方 | 金額 | 貸方 | 金額 |
|---|---|---|---|
| 支払利息 | 84,858 | リース負債 | 84,858 |
| 減価償却費 | 942,870 | 使用権資産減価償却累計額 | 942,870 |
次に、1回目のリース料100万円を支払います。
| 借方 | 金額 | 貸方 | 金額 |
|---|---|---|---|
| リース負債 | 1,000,000 | 現金預金 | 1,000,000 |
このように、リース料の支払いが「支払利息」と「リース負債の返済」という2つの要素で構成される点が、新リース会計基準における借手の会計処理の大きな特徴です。
【貸手】新リース会計基準における会計処理
借手の会計処理が「すべてのリースを原則オンバランス化」という抜本的な変更を迎えるのに対し、貸手側の会計処理は、現行の会計基準から大きな変更はありません。これは、国際的な会計基準であるIFRS第16号の考え方を踏襲したもので、実務上の混乱を避けるための措置と言えます。
しかし、全く変更がないわけではなく、一部の取引や開示項目については注意が必要です。この章では、貸手における会計処理のポイントを詳しく解説します。
貸手側の会計処理における変更点
前述の通り、貸手側の会計処理の基本的な枠組みは維持されます。リース取引は引き続き「ファイナンス・リース」と「オペレーティング・リース」に分類され、それぞれの会計処理が適用されます。この2分類モデルが維持される点が、借手側の会計処理との最大の違いです。
主な変更点としては、セール・アンド・リースバック取引における会計処理が明確化される点が挙げられます。この取引において、資産の売却が「収益認識に関する会計基準」(企業会計基準第29号)における「履行義務の充足」の要件を満たすかどうかを判定する必要が生じます。要件を満たさない場合、売却取引はなかったものとされ、金融取引として会計処理されることになります。
また、財務諸表における開示要求が拡充されており、リース活動に関するより詳細な情報を注記として記載することが求められます。
ファイナンスリースとオペレーティングリースの分類
新リース会計基準においても、貸手はリース契約を「ファイナンス・リース」と「オペレーティング・リース」のいずれかに分類します。この分類は、リース対象資産に係るリスクと経済価値のほとんどすべてが借手に移転しているかどうかを基準に判断されます。
具体的な分類基準は以下の通りです。これらのいずれかに該当する場合、ファイナンス・リースとして扱われます。この基準は基本的に従来のものから変更ありません。
| 分類基準 | 内容 |
|---|---|
| 所有権移転条項 | リース期間終了後、リース資産の所有権が借手に移転する条項がある場合。 |
| 割安購入選択権 | 借手が、リース期間終了後に著しく有利な価格で資産を購入できる権利(割安購入選択権)を有する場合。 |
| リース期間基準 | 解約不能リース期間が、リース資産の経済的耐用年数のおおむね75%以上である場合。 |
| 現在価値基準 | 解約不能のリース期間中のリース料総額の現在価値が、リース資産の購入価額のおおむね90%以上である場合。 |
上記のいずれにも該当しないリース取引が、オペレーティング・リースに分類されます。
ファイナンス・リースの会計処理
ファイナンス・リースに分類された場合、貸手は実質的に金融取引を行ったものとみなし、リース債権を資産として計上します。リース期間中は、受取リース料を元本返済部分と受取利息部分に分解し、受取利息を金融収益として認識します。
オペレーティング・リースの会計処理
オペレーティング・リースに分類された場合、貸手はリース資産を引き続き自社の固定資産として計上します。そして、リース期間にわたって減価償却を行い、受取リース料を収益として認識します。これは、資産の賃貸借取引としての実態を反映した会計処理です。
このように、貸手側の会計処理は、借手側のような劇的な変化はなく、従来の会計処理の枠組みが基本的に維持される点を理解しておくことが重要です。
簡便的な取扱い 短期リースと少額リース
新リース会計基準では、原則としてすべてのリース契約を使用権資産とリース負債としてオンバランス計上することが求められます。しかし、すべてのリースにこの原則を厳格に適用すると実務上の負担が過大になるケースも想定されます。そのため、企業の会計処理の負担を軽減する目的で、特定の条件を満たすリースについては簡便的な取扱い(免除規定)が認められています。それが「短期リース」と「少額リース」です。
これらの免除規定を適用することで、対象となるリースを使用権資産・リース負債として計上せず、従来通り支払リース料を費用として処理することが可能になります。ここでは、それぞれの要件と会計処理について詳しく解説します。
短期リースの要件と会計処理
短期リースとは、その名の通りリース期間が短いリースを指します。この簡便的な取扱いを適用することで、企業の経理業務の効率化が期待できます。
短期リースの要件
短期リースとして認められるためには、リース開始日においてリース期間が12ヶ月以内であるリースであることが必要です。この「リース期間」の算定が重要なポイントとなります。具体的には、解約不能期間に加えて、借手が延長オプションを行使することが合理的に確実な期間を含め、借手が解約オプションを行使しないことが合理的に確実な期間を含めて判断します。また、借手が行使することが合理的に確実な購入オプションが含まれるリースは、たとえ期間が12ヶ月以内であっても短期リースには該当しないため注意が必要です。
短期リースの会計処理
短期リースの要件を満たす場合、借手は使用権資産およびリース負債を認識しないことを選択できます。その場合、リース料総額を、定額法またはその他の規則的な基準が実態をより反映する場合にはその基準で、リース期間にわたって費用として計上します。これは、改正前のオペレーティング・リースと同様の会計処理であり、財務諸表に資産と負債が計上されないオフバランス取引として扱える点が大きな特徴です。
少額リースの要件と会計処理
少額リースは、リース対象となる資産そのものの価値が小さいリースを指します。例えば、企業が利用するPC、タブレット端末、コピー機、オフィス家具などが該当する可能性があります。
少額リースの要件
少額リースの簡便法を適用するには、リース対象の原資産が少額であることが要件となります。この「少額」であるかどうかの判断は、個々のリース資産ごとに行われ、その資産が新品であった場合の価額に基づいて評価します。企業がリースしている同種の資産を合算して判断するわけではない点に留意してください。
日本の会計基準では、IFRS第16号のように具体的な金額基準(例えば5,000米ドル)は明示されていません。そのため、各企業が自社の事業規模や資産の性質を考慮し、重要性の観点から金額基準に関する会計方針を定め、継続的に適用する必要があります。この基準設定にあたっては、監査法人など専門家との協議も重要になるでしょう。
少額リースの会計処理
少額リースの会計処理は、短期リースと同様です。使用権資産とリース負債を計上せず、支払リース料をリース期間にわたって費用として認識します。この簡便的な取扱いの選択は、リースごとに行うことができます。
短期リースと少額リースの比較
短期リースと少額リースは、どちらもオンバランス処理の例外ですが、判断基準が異なります。以下の表でその違いを整理します。
| 項目 | 短期リース | 少額リース |
|---|---|---|
| 判断基準 | リース期間 | 原資産の価値(新品の場合) |
| 具体的な要件 | リース開始日時点で12ヶ月以内 | 企業が設定した重要性の基準に基づく金額以下 |
| 適用の単位 | リース契約ごと | リースごと(個々の原資産ごと) |
| 会計処理 | 使用権資産・リース負債を計上せず、リース料を期間按分して費用処理(オフバランス) | |
このように、新リース会計基準は原則オンバランス化という大きな変更をもたらしますが、実務への配慮から簡便的な取扱いも設けられています。自社にどのようなリース契約が存在するかを棚卸しし、どのリースにこの免除規定を適用できるか検討することが、スムーズな移行の鍵となります。
新リース会計基準で求められる開示内容
新リース会計基準の適用により、これまでオフバランスだったオペレーティング・リースが原則として貸借対照表に計上されることになります。これに伴い、財務諸表利用者が企業のリース契約の実態を正確に理解できるよう、開示(注記)情報が大幅に拡充されます。ここでは、借手と貸手それぞれに求められる主な開示内容を具体的に解説します。
借手に求められる主な注記事項
借手は、リースに関する定性的情報と定量的情報の両面から、財務諸表の利用者に十分な情報を提供することが求められます。これにより、使用権資産とリース負債が財務状態、経営成績、キャッシュ・フローに与える影響を理解できるようになります。
定性的情報
文章形式で、自社が締結しているリース契約の性質について説明します。具体的には、以下のような情報が含まれます。
- リース契約の概要(例:不動産、車両、IT機器など、どのような資産をリースしているか)
- 変動リース料に関する情報
- 延長オプションや購入オプションの存在と、その会計処理上の判断
- リース契約に付随する重要な制約や条件
- 割引率の決定方法に関する重要な判断
定量的情報
数値データを用いて、リース契約の規模や財務への影響を具体的に示します。特に、使用権資産とリース負債に関する情報は重要です。
使用権資産に関する情報
| 項目 | 金額 |
|---|---|
| 期首残高 | XXX,XXX円 |
| 当期増加額 | XXX,XXX円 |
| 減価償却費 | (XXX,XXX円) |
| その他の増減 | ±XX,XXX円 |
| 期末残高 | XXX,XXX円 |
上記に加えて、資産クラス(不動産、機械装置など)ごとの使用権資産の帳簿価額も注記が必要です。
リース負債と損益・キャッシュフローに関する情報
損益計算書やキャッシュ・フロー計算書に関連する項目も開示対象となります。
- リースに関連する費用(使用権資産の減価償却費、リース負債に係る支払利息)
- 短期リース、少額リース、変動リース料のうち費用処理した金額
- リースに関連するキャッシュ・アウトフローの総額
- リース負債の満期分析(例:1年以内、1年超5年以内、5年超など)
貸手に求められる主な注記事項
貸手側の会計処理に大きな変更はありませんが、新基準ではリース活動から生じる収益やリスクを財務諸表利用者が理解できるよう、開示の充実が求められます。
定性的情報
貸手は、リース活動の性質や、リースから生じるリスクをどのように管理しているかについて説明します。具体的には、リース債権の信用リスク管理方針などが該当します。
定量的情報
貸手は、ファイナンス・リースとオペレーティング・リースについて、それぞれ収益や資産の内訳を定量的に開示する必要があります。
ファイナンス・リースに関する情報
| 期間 | 金額 |
|---|---|
| 1年以内 | XXX,XXX円 |
| 1年超2年以内 | XXX,XXX円 |
| 2年超3年以内 | XXX,XXX円 |
| 3年超4年以内 | XXX,XXX円 |
| 4年超5年以内 | XXX,XXX円 |
| 5年超 | XXX,XXX円 |
上記の表と、割引前リース料総額とリース投資資産の純額との調整表も開示します。
オペレーティング・リースに関する情報
オペレーティング・リースについては、原資産の資産クラスごとの帳簿価額や、将来の最低リース料総額(解約不能期間に基づく)を期間別に開示することが求められます。
実務への影響と対応策
新リース会計基準の導入は、単なる会計処理の変更にとどまりません。財務諸表の数値を大きく変動させ、経営判断や社内業務フローにまで影響を及ぼす可能性があります。ここでは、具体的な影響と、企業が取るべき対応策について、全国に店舗を展開するサウナ施設例に挙げて解説します。
財務諸表と経営指標に与えるインパクト
新リース会計基準の最も大きな影響は、これまでオフバランス処理されていたオペレーティングリースが、使用権資産(資産)とリース負債(負債)として貸借対照表(B/S)に計上されることです。これにより、企業の財務状況の見え方が大きく変わります。
例えば、賃借している多数の店舗物件は、その多くが新基準におけるリース契約に該当すると考えられます。結果として、これまでB/Sに現れていなかった巨額の資産と負債が同時に計上されることになります。
このオンバランス化は、主要な経営指標に以下のような影響を与えます。
| 影響を受ける項目 | 具体的な影響 | 理由 |
|---|---|---|
| 貸借対照表(B/S) | 総資産と負債がともに増加する。 | 使用権資産とリース負債が計上されるため。 |
| 損益計算書(P/L) | 支払リース料がなくなり、減価償却費と支払利息が計上される。結果として営業利益は増加する傾向にある。 | 支払リース料(主に販管費)が、減価償却費(販管費)と支払利息(営業外費用)に分解されるため。 |
| 自己資本比率 | 低下する。 | 自己資本は変わらない一方で、負債を含む総資産が増加するため。 |
| ROA(総資産利益率) | 低下する。 | 利益の増加幅よりも、総資産の増加幅の方が大きくなる傾向があるため。 |
| EBITDA | 増加する。 | 計算上、支払利息と減価償却費が足し戻されるため、従来の支払リース料が費用から除外される形になるため。 |
これらの変化は、金融機関からの借入における財務制限条項(コベナンツ)や、社内の業績評価指標に影響を与える可能性があるため、ステークホルダーへの事前説明と、評価指標の見直しが不可欠です。
社内体制と業務フローの見直しポイント
新リース会計基準への対応は、経理部門だけの問題ではありません。全社を巻き込んだ体制構築と業務フローの見直しが求められます。
契約管理体制の再構築
まず、社内に存在する全ての賃貸借契約やレンタル契約を網羅的に洗い出す必要があります。店舗不動産だけでなく、サウナストーブや音響設備、タオルや館内着のレンタル契約なども対象となり得ます。契約の主管部署(店舗開発部、設備管理部など)と経理部門が連携し、契約情報を一元管理する仕組みを構築することが重要です。
リース判定プロセスの確立
収集した契約情報をもとに、新基準の定義に照らしてリースに該当するかどうかを一つひとつ判定しなければなりません。この判定には専門的な知識を要するため、判定基準を明確にした社内マニュアルを作成したり、会計システムに判定機能を持たせたりするなどの対応が考えられます。
システム対応の検討
リース契約の数が多い場合、Excelなどでの手作業管理には限界があります。使用権資産やリース負債の計算、減価償却や利息の計算、仕訳作成、開示情報の収集などを効率的に行うためには、リース資産管理に特化したシステムの導入や、既存の会計システムの改修を検討することが現実的な選択肢となります。
適用初年度における経過措置の選択
新リース会計基準の適用初年度には、実務上の負担を軽減するための経過措置が認められています。企業は原則的な方法と簡便的な方法のいずれかを選択できます。
| 方法 | 概要 | メリット | デメリット |
|---|---|---|---|
| 原則法(リトロスペクティブ法) | 過去の財務諸表(比較年度)を新基準に遡って修正する。 | 期間比較可能性が確保できる。 | 遡及修正のためのデータ収集や計算に多大な工数がかかる。 |
| 簡便法(修正リトロスペクティブ法) | 適用開始日時点での累積的影響額を、利益剰余金の期首残高に反映させる。 | 過去の財務諸表を修正する必要がなく、実務負担が大幅に軽減される。 | 適用初年度の財務諸表と過去の財務諸表との比較可能性が損なわれる。 |
どちらの方法を選択するかは、企業のリース契約の数や内容、システム対応の状況、投資家への説明責任などを総合的に勘案して決定する必要があります。多くの企業では実務負担の観点から簡便法を選択することが予想されますが、自社の状況に合わせた慎重な判断が求められます。
まとめ
本記事では、新リース会計基準の概要から適用時期、具体的な会計処理、実務上の対応策までを網羅的に解説しました。新リース会計基準の最も重要な変更点は、これまでオフバランス処理が可能であったオペレーティング・リースを含め、原則としてすべてのリースを資産・負債として計上(オンバランス化)することです。この改正は、企業の財務実態をより正確に財務諸表に反映させ、国際的な会計基準であるIFRS第16号との整合性を図ることを目的としています。
特に借手においては、「使用権資産」と「リース負債」を新たに計上する必要があり、会計処理が大きく変更されます。これにより、自己資本比率や負債比率といった財務指標に影響が及ぶ可能性があるため、注意が必要です。一方で、貸手側の会計処理については、現行基準の枠組みが概ね維持され、大きな変更はありません。
実務対応としては、まず社内に存在するすべてのリース契約を洗い出し、新基準における「リース」の定義に該当するかを識別することから始まります。その上で、「短期リース」や「少額リース」といった簡便的な取扱いの適用可否を検討し、業務フローや会計システムの改修を進める必要があります。また、適用初年度における経過措置の選択は、財務への影響を緩和する上で重要な判断となります。
新リース会計基準は、2026年4月1日以後開始する事業年度から強制適用となります。適用開始に向けて残された時間は限られています。本記事を参考に、計画的な準備を進め、円滑な移行を実現してください。
