【事例で学ぶ】インシデント管理の具体的な手順|すぐに使える報告書テンプレート付き

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突発的なシステム障害やサービス停止といった「インシデント」への対応に課題を感じていませんか。場当たり的な対応は被害を拡大させ、ビジネスに深刻な影響を及ぼしかねません。本記事では、インシデント管理の目的と重要性から、具体的な7つの手順、業界別事例までを網羅的に解説します。さらに、すぐに使える報告書テンプレートや管理を効率化するツールの選び方もご紹介。効果的なインシデント管理の鍵は、SLA(サービスレベル合意)を意識した明確なプロセスを確立し、得られたナレッジを基に継続的に改善していくことです。この記事を読めば、インシデントによる損害を最小限に抑え、安定したサービス提供を実現するための具体的な方法がわかります。

目次

インシデント管理とは 目的と重要性をわかりやすく解説

ビジネスの継続性を脅かす予期せぬトラブル、それが「インシデント」です。現代の企業活動はITシステムに大きく依存しており、システム障害やサービス停止は、売上機会の損失や顧客信用の低下に直結します。インシデント管理とは、こうしたインシデントが発生した際に、サービスを迅速に復旧させ、ビジネスへの影響を最小限に抑えるための体系的なプロセスです。本章では、インシデント管理の基本的な定義から、その重要性、そして関連する管理プロセスとの違いまでをわかりやすく解説します。

インシデントの定義とビジネスへの影響

ITIL(Information Technology Infrastructure Library)では、インシデントを「サービスの正常な運用を中断させる、あるいはその品質を低下させる可能性のある、計画外の出来事」と定義しています。具体的には、以下のような事象がインシデントに該当します。

  • Webサイトが表示されない、ECサイトで決済ができないといったシステムダウン
  • 社内ネットワークに接続できない、メールの送受信ができないといったネットワーク障害
  • 業務アプリケーションがフリーズする、データが正しく表示されないといったソフトウェアの不具合
  • 不正アクセスやマルウェア感染の疑いといったセキュリティに関する事象

これらのインシデントを放置したり、対応が遅れたりすると、売上機会の損失、顧客満足度の低下、ブランドイメージの毀損、従業員の生産性低下といった深刻なビジネスインパクトを引き起こします。つまり、インシデントは単なる技術的な問題ではなく、企業の経営基盤を揺るがしかねない重大なリスクなのです。

インシデント管理の目的と導入メリット

インシデント管理の最大の目的は、「影響を受けているサービスを可能な限り迅速に正常な状態へ復旧させること」です。根本的な原因を追求するよりも、まずはビジネスを動かし続けるための応急処置を優先します。この目的を達成するためにインシデント管理を導入することで、企業は以下のような多くのメリットを享受できます。

  • ダウンタイムの短縮: 標準化されたプロセスにより、迅速かつ的確な対応が可能となり、サービス停止時間を最小限に抑えます。
  • 顧客満足度の向上: 迅速な復旧と適切な情報提供により、顧客からの信頼を維持・向上させます。
  • 対応プロセスの標準化と効率化: 誰が、いつ、何をすべきかが明確になり、対応の属人化を防ぎ、組織全体の対応品質を均一化します。
  • ナレッジの蓄積: 発生したインシデントの対応履歴を記録・蓄積することで、将来同様のインシデントが発生した際に、より迅速な解決が可能になります。

問題管理や変更管理との違い

インシデント管理は、「問題管理」や「変更管理」といった他のITサービスマネジメントプロセスと混同されがちです。それぞれの目的と役割は明確に異なり、互いに連携してサービスの安定性を高めます。以下の表でその違いを確認しましょう。

管理プロセス目的主な対応
インシデント管理サービスの迅速な復旧(応急処置)発生した事象に対し、サービスを正常な状態に戻すための暫定的な解決策(ワークアラウンド)の適用やシステムの再起動などを行います。(リアクティブな対応)
問題管理インシデントの根本原因の特定と恒久的な解決複数のインシデントの傾向を分析し、根本原因を特定して再発防止策を立案します。未知のエラーを特定し、将来のインシデントを未然に防ぐ活動も含まれます。(プロアクティブな対応)
変更管理ITインフラへの変更を安全かつ効率的に実施システムの改修やアップデートなど、IT環境へのすべての変更を評価・計画・承認し、変更に伴うリスクを管理して、変更に起因するインシデントの発生を防ぎます。(計画的な対応)

簡単に言えば、インシデント管理が「火事を消す」活動だとすれば、問題管理は「火事の原因(漏電など)を調査して修理する」活動、変更管理は「安全基準に則って電気工事を行う」活動に例えられます。これらは独立しているのではなく、インシデント管理でサービスを復旧させた後、問題管理で根本原因を特定し、その対策として変更管理プロセスを通じてシステム改修を行うという一連の流れで連携しています。

【7ステップ】インシデント管理の具体的な手順とプロセス

インシデント管理 7つのステップ (ITIL準拠) 1 検知と記録 一元管理と正確な記録 2 分類と優先度付け 影響度×緊急度で判断 3 初期調査と診断 ナレッジ検索・一次対応 4 エスカレーション 専門チームへの引き継ぎ 5 解決と復旧 回避策または恒久対策 6 クローズ ユーザー合意と完了処理 7 報告とナレッジ蓄積 再発防止と資産化 ナレッジベース / サービス改善 将来のインシデント対応の迅速化・品質向上へ

インシデント管理は、場当たり的に対応するのではなく、定められたプロセスに沿って進めることが極めて重要です。ここでは、国際的なITサービスのベストプラクティスであるITIL(IT Infrastructure Library)でも推奨されている、標準的な7つのステップを紹介します。この手順を組織内で標準化することで、対応の属人化を防ぎ、迅速かつ効果的なインシデント解決を実現できます。

ステップ1 インシデントの検知と記録

インシデント管理の最初のステップは、インシデントの発生を「検知」し、その内容を正確に「記録」することです。検知の方法は、ユーザーからの電話やメール、チャットによる問い合わせ、あるいは監視ツールが発するアラートなど多岐にわたります。どのような経路で発生したインシデントであっても、すべてを一元的に記録・管理することが重要です。記録漏れは、対応の遅れや問題の潜在化に直結します。記録する際には、以下の情報を正確に残しましょう。

  • 発生日時
  • 報告者名と連絡先
  • インシデントの具体的な内容(エラーメッセージなど)
  • 発生しているシステムやサービス
  • 影響を受けているユーザーの範囲

ステップ2 インシデントの分類と優先度付け

記録されたインシデントは、次に「分類」と「優先度付け」を行います。分類とは、インシデントの内容に応じて「ハードウェア障害」「ソフトウェアのバグ」「ネットワーク障害」「操作に関する問い合わせ」といったカテゴリに分ける作業です。これにより、どの専門チームが対応すべきかを迅速に判断できます。

優先度付けは、ビジネスへの影響度(Impact)と緊急度(Urgency)を基に決定するのが一般的です。例えば、以下のようなマトリクスを用いて、対応の優先順位を客観的に判断します。

緊急度:高
(早急な対応が必要)
緊急度:中
(通常業務時間内に対応)
緊急度:低
(計画的に対応)
影響度:高
(基幹システム停止など)
最優先
影響度:中
(一部機能の停止など)
影響度:低
(軽微な問題など)

SLA(サービスレベル合意)に基づく優先度の決定方法

SLA(Service Level Agreement)とは、サービス提供者と利用者の間で交わされる、サービスの品質に関する合意です。SLAには多くの場合、インシデント発生時の目標復旧時間(RTO)などが定められています。SLAで定められた時間を超過するとペナルティが発生する可能性があるため、SLAの要件は優先度を決定する上で最も重要な判断基準の一つとなります。

ステップ3 初期調査と診断

優先度が決定したら、一次対応担当者(多くはサービスデスクやヘルプデスク)が初期調査と診断を行います。この段階では、過去の類似インシデントがナレッジベースにないか検索したり、ユーザーにヒアリングを行って状況を再現したりすることで、原因の切り分けを試みます。既知の問題であれば、ナレッジに記載された手順に沿って迅速に解決できる場合もあります。

ステップ4 適切な担当者へのエスカレーション

初期調査で解決できない、あるいは専門的な知識が必要だと判断された場合、インシデントは二次・三次対応の専門チームへと「エスカレーション」されます。エスカレーションの際には、ステップ1で記録した情報や初期調査の結果を正確に伝えることが、その後のスムーズな対応の鍵を握ります。誰が、いつ、どのような対応を行ったのかという履歴を明確に残し、引き継ぎの漏れがないようにしましょう。

ステップ5 インシデントの解決とシステムの復旧

エスカレーションを受けた担当者は、本格的な原因調査を行い、恒久的な解決策を実施します。しかし、原因の特定に時間がかかる場合もあります。その際は、ビジネスへの影響を最小限に抑えるため、まずサービスを正常な状態に戻す「ワークアラウンド(回避策)」を優先的に実施します。システムの復旧が確認できた後、根本原因の調査と恒久対策を進めるのが定石です。

ステップ6 インシデントのクローズ

インシデントが解決し、システムが正常に稼働していることを確認したら、対応を終了する「クローズ」の処理を行います。ここで重要なのは、担当者だけの判断でクローズしないことです。必ずインシデントを報告したユーザーに解決した旨を連絡し、問題が解消されたことの合意を得てからクローズしましょう。これにより、対応の完了が明確になり、ユーザーの満足度も向上します。

ステップ7 ユーザーへの報告とナレッジの蓄積

インシデントをクローズした後、最後の重要なステップが「報告」と「ナレッジの蓄積」です。必要に応じて、インシデントの原因や対応内容、再発防止策などをまとめた報告書を作成し、関係者に共有します。そして、今回の対応プロセスで得られた知見を、誰もが参照できる「ナレッジ」として整理・蓄積します。このナレッジが、将来発生するであろう類似インシデントの解決時間を大幅に短縮し、組織全体の対応能力を向上させる貴重な資産となります。

【業界別】インシデント管理の成功事例から学ぶ

業界別インシデント管理の成功事例比較 ITサービス業界 (SaaS提供企業) 発生インシデント システム障害による レスポンス低下 対応のポイント 監視ツールで自動検知 暫定対処で機能制限 リアルタイム情報公開 成果 透明性の高い対応で 顧客の信頼を維持 製造業 (自動車部品メーカー) 発生インシデント システムトラブルによる 生産ライン停止 対応のポイント 現場とIT部門の連携 故障機器の特定 予備機への即時交換 成果 わずか30分で復旧 納期遅延を回避 金融機関 (ネット銀行) 発生インシデント リスト型攻撃による 不正ログイン試行 対応のポイント SOCによる即時分析 攻撃元IPの即時遮断 顧客への注意喚起 成果 不正送金ゼロを達成 実被害を未然に防止

インシデント管理の具体的なプロセスや重要性は、業界の特性によって大きく異なります。ここでは、ITサービス、製造業、金融という3つの異なる業界におけるインシデント管理の成功事例を取り上げ、それぞれの課題にどう立ち向かい、どのような成果を上げたのかを具体的に解説します。自社の状況に近い事例から、実践的なヒントを学び取りましょう。

ITサービス業界における迅速な障害対応事例

24時間365日稼働が求められるSaaS(Software as a Service)を提供する企業にとって、システム障害は顧客のビジネスに直結する重大なインシデントです。この事例では、迅速な対応と透明性の高い情報共有が顧客の信頼を維持した鍵となりました。

ある大手SaaS企業では、サービスのレスポンスが著しく低下するシステム障害が発生しました。監視ツールが異常を自動検知し、即座に開発チームとインフラチームへアラートが通知されました。インシデント対応チームは、SLA(サービスレベル合意)への影響を考慮し、このインシデントの優先度を最高レベルに設定。顧客への影響を最小限に抑えるため、原因の特定と並行して、まず一部機能を制限する暫定対処を行い、サービスの最低限の利用を確保しました。

その後、根本原因がデータベースの高負荷であったことを特定し、修正パッチを適用して完全復旧。対応の過程は、ステータスページを通じてリアルタイムで顧客に公開され、復旧後には原因と恒久的な再発防止策を詳細に記した報告書が提出されました。この一連のプロセスにより、障害発生というネガティブな事象にもかかわらず、誠実な対応が評価され顧客からの信頼を維持することに成功しました。

項目内容
発生したインシデントSaaSのレスポンスが大幅に低下するシステム障害
対応のポイント・監視ツールによる自動検知と即時エスカレーション
・暫定対処による影響範囲の極小化
・リアルタイムでの情報公開と詳細な事後報告
得られた成果ダウンタイムの短縮と、透明性の高い対応による顧客満足度の維持。対応ナレッジの蓄積による将来のインシデント解決時間の短縮。

製造業におけるシステムトラブルの対応事例

スマートファクトリー化が進む現代の製造業において、生産管理システムや制御システムのトラブルは、生産ラインの停止という莫大な損失に直結します。この事例では、IT部門と現場部門の密な連携が迅速な復旧を実現しました。

ある自動車部品メーカーの工場で、生産ラインを管理するシステムに原因不明のトラブルが発生し、ラインが停止しました。現場の作業員がマニュアルに従い、直ちに工場のIT管理部門へ報告。報告を受けたIT担当者は、現場責任者と連携して状況をヒアリングし、影響範囲を特定しました。単なるソフトウェアの不具合ではなく、特定のネットワーク機器の故障が原因であることを迅速に突き止めました。

幸い、クリティカルな機器については予備機が用意されており、インシデント対応計画書の手順通りに機器を交換。約30分で生産ラインを再稼働させることに成功しました。このインシデントを教訓に、同様の機器に対する定期点検の頻度を見直し、予防保全の体制を強化。結果として、生産への影響を最小限に抑えるだけでなく、将来的なリスクの低減にも繋がりました。

項目内容
発生したインシデント生産管理システムのトラブルによる生産ラインの停止
対応のポイント・現場とIT部門の明確な報告・連携体制
・原因の切り分けと迅速な特定
・予備機への切り替えによる早期復旧
得られた成果生産ラインのダウンタイムを最小化し、納期遅延を回避。インシデントデータを活用した予防保全計画の精度向上。

金融機関におけるセキュリティインシデント管理の事例

顧客の資産を預かる金融機関では、セキュリティインシデントはサービスの信頼性を根底から揺るがす最重要課題です。この事例では、不正アクセスを早期に検知し、被害を未然に防いだ体制が効果を発揮しました。

ある大手ネット銀行で、海外の特定のIPアドレスからインターネットバンキングへの不正ログインの試みが急増していることを、不正検知システムが自動で検知しました。アラートは即座にセキュリティオペレーションセンター(SOC)にエスカレーションされ、担当チームが分析を開始。これは単なるパスワード試行ではなく、リスト型攻撃であると判断されました。

チームは、インシデント対応マニュアルに基づき、被害拡大を防ぐことを最優先に行動。攻撃元と断定されたIPアドレス群からのアクセスを即時遮断しました。同時に、ログインされた可能性のある顧客リストを抽出し、個別に連絡を取るとともに、パスワードの強制リセットを実施。ウェブサイトやメールマガジンを通じて全顧客に注意喚起を行い、二次被害の防止に努めました。この迅速かつ組織的な対応により、不正送金などの実被害を一件も出すことなくインシデントを収束させ、金融機関としての信頼性を守り抜きました。

項目内容
発生したインシデントインターネットバンキングへのリスト型攻撃による不正ログイン試行
対応のポイント・不正検知システムによる早期発見
・SOCを中心とした専門チームによる迅速な分析と判断
・アクセス遮断と顧客への注意喚起による被害拡大の防止
得られた成果実被害の発生を未然に防止し、顧客資産を保護。セキュリティ対策への信頼感を醸成し、ブランドイメージを維持。

すぐに使えるインシデント管理報告書テンプレート

インシデントが発生した際、その内容を正確に記録し、関係者へ迅速に共有するための「インシデント管理報告書」は不可欠です。この報告書は、単なる記録にとどまらず、インシデントの根本原因の究明や、効果的な再発防止策を策定するための重要な基礎資料となります。ここでは、誰でもすぐに活用できる報告書の必須項目と、具体的な記入例をテンプレートとしてご紹介します。

インシデント管理報告書に記載すべき必須項目

精度の高いインシデント管理報告書を作成するためには、記載すべき項目を標準化しておくことが重要です。以下の表は、報告書に含めるべき必須項目とその記載内容をまとめたものです。これらの項目を網羅することで、状況の正確な把握とスムーズな情報共有が可能になります。

項目名記載内容の例ポイント
管理番号 / IDINC-20231026-001インシデントを一意に識別するための番号です。時系列やシステム名などを組み合わせると管理しやすくなります。
件名 / タイトル【障害報告】〇〇システム データベース接続エラーインシデントの内容がひと目でわかるように、具体的かつ簡潔に記載します。
発生日時2023年10月26日 14:30頃インシデントが最初に発生した正確な日時を記録します。
復旧日時2023年10月26日 15:15システムやサービスが正常な状態に復旧した日時です。対応時間の算出に用います。
発生事象の概要〇〇システムの全ユーザーがログインできず、「データベース接続エラー」のメッセージが表示される。いつ、どこで、誰が、何を、どのように、といった5W1Hを意識して客観的な事実を記述します。
影響範囲対象システム:〇〇システム
影響ユーザー:全ユーザー
業務影響:〇〇業務の停止
インシデントがどのシステム、ユーザー、業務に影響を及ぼしたかを具体的に特定します。
緊急度 / 優先度緊急度:高 / 優先度:最高SLA(サービスレベル合意)に基づき、ビジネスインパクトの大きさに応じて客観的に判断します。
原因(根本原因)データベースサーバーのディスク容量逼迫による書き込み不可。なぜその事象が発生したのか、表面的な原因だけでなく根本原因まで掘り下げて分析・特定することが最も重要です。
実施した対応14:35 担当者が状況確認
14:50 原因調査開始
15:10 データベースサーバーの不要ログを削除
15:15 システム正常稼働を確認
インシデントの検知から解決までに行った対応を時系列で具体的に記録します。誰が何を行ったかを明確にします。
再発防止策・ディスク容量の監視体制強化(閾値を80%に設定し、超過時にアラート発報)
・定期的な不要ログの削除プロセスの導入
根本原因を排除し、同様のインシデントが二度と起こらないようにするための具体的なアクションプランを記載します。

【無料ダウンロード】報告書テンプレートと記入例

上記の必須項目を盛り込んだ、すぐに使えるインシデント管理報告書のテンプレート(記入例)です。この形式をベースに、WordやExcelなどにコピー&ペーストしてご利用ください。インシデントの内容や自社の運用ルールに合わせて、適宜カスタマイズすることをおすすめします。

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インシデント管理報告書

管理番号: INC-20231026-001

報告日: 2023年10月27日

作成者: 運用管理部 鈴木 太郎

件名: 【障害報告】〇〇システム データベース接続エラーによるサービス停止

1. 発生日時: 2023年10月26日 14:30頃

2. 復旧日時: 2023年10月26日 15:15

3. 発生事象の概要:
〇〇システムにアクセスした際、「データベース接続エラー」というメッセージが表示され、全ユーザーがログインできない状態となった。

4. 影響範囲:
・対象システム:顧客管理システム「〇〇システム」
・影響ユーザー:全社員
・業務影響:顧客情報の閲覧・登録・更新業務が全面的に停止。

5. 緊急度 / 優先度:
緊急度:高 / 優先度:最高(理由:主要業務が完全に停止し、ビジネスインパクトが甚大であるため)

6. 原因:
(根本原因)データベースサーバーのログディスク(/var/log)の容量が100%に達し、新規ログの書き込みができなくなったため、データベースプロセスが停止した。

7. 実施した対応(時系列):
・14:32 ユーザーからの問い合わせによりインシデントを検知
・14:40 サーバー担当者が調査を開始。データベースプロセスの停止を確認
・14:55 サーバーログを確認し、ディスク容量の逼迫を特定
・15:10 ローテーションされていなかった古いログファイル(10GB相当)を削除し、ディスク容量を確保
・15:12 データベースプロセスを再起動
・15:15 システムにログインし、正常に動作することを確認し、復旧と判断

8. 再発防止策:
・【恒久対応】ログローテーションの設定不備を修正し、1週間以上経過したログは自動的に削除されるように設定変更を実施する。(対応期限:2023年11月2日 / 担当:鈴木)
・【予防措置】主要サーバーのディスク使用量を監視ツールに追加し、使用率が80%を超えた時点で運用管理部へアラートが通知される仕組みを構築する。(対応期限:2023年11月10日 / 担当:佐藤)

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インシデント管理を効率化するおすすめツール

インシデント管理のプロセスを確立しても、その運用が非効率では意味がありません。特に、手作業や汎用的なオフィスソフトでの管理には限界があり、対応の遅れやヒューマンエラーを招く原因となります。ここでは、インシデント管理を飛躍的に効率化する専用ツールの活用について、Excel管理の課題からツール導入のメリット、具体的な製品までを解説します。

Excelによるインシデント管理の限界と課題

手軽に始められるため、多くの企業でインシデント管理にExcelが利用されています。しかし、インシデントの件数が増え、組織が拡大するにつれて、以下のような限界点が顕在化します。

課題具体的な問題点
リアルタイム性の欠如ファイルが担当者ごとに分散し、どれが最新版か分からなくなる。同時編集が難しく、情報の更新漏れや二重対応が発生しやすい。
業務の属人化特定の担当者しか更新できない複雑な関数やマクロが組まれ、メンテナンスが困難になる。担当者の不在時や退職時に管理が滞るリスクがある。
情報共有の非効率性メールにファイルを添付して共有するため、関係者への周知に時間がかかる。確認漏れや、過去のやり取りの検索が非常に困難。
分析とナレッジ活用の困難さデータの蓄積はできても、傾向分析やレポート作成に多大な工数がかかる。過去の類似インシデントを検索するのも難しく、ナレッジが活用されない。

これらの課題は、インシデント解決までの時間(MTTR)を長期化させ、結果的にビジネスへの影響を拡大させる大きな要因となります。

ツール導入で実現できること

インシデント管理ツールを導入することで、Excel管理の課題を根本から解決し、運用の質を大幅に向上させることができます。

主なメリットは以下の通りです。

  • 情報の一元管理と可視化: すべてのインシデント情報を単一のプラットフォームで管理。対応状況や担当者、過去の履歴などをダッシュボードでリアルタイムに可視化し、関係者全員が常に最新の情報を共有できます。
  • プロセスの標準化と自動化: インシデントの受付から分類、優先度付け、担当者の割り当て、通知までの一連のプロセスを自動化できます。これにより、対応漏れや遅延を防ぎ、担当者の負担を軽減します。
  • 迅速なナレッジの蓄積と活用: 対応履歴が自動的にナレッジベースとして蓄積されます。過去の類似インシデントとその解決策を容易に検索できるため、迅速かつ質の高い対応が可能となり、新人教育にも役立ちます
  • SLAの遵守とレポーティング: 設定したSLA(サービスレベル合意)に基づき、対応期限が近づくとアラートを出すなど、SLA遵守を支援します。また、対応件数や平均解決時間などのKPIを自動で集計・レポート化し、継続的なプロセス改善に繋げられます。

ITサービス管理ツール「SHERPA SUITE」の紹介

インシデント管理ツールには様々な種類がありますが、ここでは代表的な国産ITサービス管理(ITSM)ツールの一つである「SHERPA SUITE(シェルパスイート)」を紹介します。

SHERPA SUITEは、国際的なベストプラクティスであるITILに準拠した運用を実現できるツールです。インシデント管理はもちろん、その後の恒久対策を管理する「問題管理」や、システム変更を管理する「変更管理」といったプロセスとシームレスに連携できるのが大きな特徴です。

このツールを導入することで、インシデントの根本原因の特定から再発防止策の実施まで、一気通貫でのサービスマネジメントが実現します。直感的に操作できるインターフェースや、日本のビジネス習慣に合わせた柔軟なカスタマイズ性も魅力であり、多くの国内企業で導入実績があります。自社の課題や規模に合わせて、このような専門ツールの導入を検討することが、効果的なインシデント管理体制を構築する上で極めて重要です。

効果的なインシデント管理を実現する3つのポイント

効果的なインシデント管理 3つのポイント 体制と役割分担 各担当の定義 サービスデスク / 二次対応 インシデントマネージャー 責任の可視化 (RACI) Task A R Task B A Task C C 「誰が何をするか」を 明確にして混乱を防ぐ プロセスの改善 PDCA 定期的な評価 形骸化を防ぐ仕組み ビジネス環境への適応 KPIによる測定 MTTR / FCR / SLA 数値に基づく改善活動 再発防止への連携 根本原因分析 (RCA) 「なぜ」を掘り下げる 暫定対応からの脱却 問題管理プロセスへ インシデント(復旧) 問題管理(恒久対策) ナレッジ(KEDB)に蓄積し 組織の資産にする

インシデント管理のプロセスを導入するだけでは、その効果を最大限に引き出すことはできません。重要なのは、定義したプロセスを形骸化させず、組織全体で継続的に運用し、改善していくことです。ここでは、インシデント管理を成功に導くために不可欠な3つのポイントを解説します。

明確な体制構築と役割分担

インシデント発生時、誰が何をすべきかが曖昧では、対応の遅延や混乱を招き、被害を拡大させる原因となります。迅速かつ的確な対応を実現するためには、インシデント対応体制を事前に構築し、各担当者の役割と責任を明確に定義しておくことが極めて重要です。

具体的には、インシデントの一次受付と切り分けを行う「サービスデスク」、技術的な調査と復旧作業を行う「二次対応チーム」、高度な専門知識を要する問題に対応する「専門家チーム(三次対応)」、そしてインシデント対応プロセス全体を監督し、意思決定を行う「インシデントマネージャー」といった役割を定めます。

さらに、責任の所在を明確にするために「RACIチャート」などのフレームワークを活用すると効果的です。RACIは、各タスクに対して誰が「実行責任者(Responsible)」「説明責任者(Accountable)」「協業先(Consulted)」「報告先(Informed)」であるかを可視化する手法です。

タスクサービスデスク二次対応チームインシデントマネージャー
インシデントの記録R (実行)I (報告先)A (説明)
初期診断と分類R (実行)C (協業)A (説明)
復旧対応I (報告先)R (実行)A (説明)
ユーザーへの報告R (実行)C (協業)A (説明)

このような体制と役割分担を文書化し、全関係者で共有することで、有事の際にも迷うことなく、組織として一貫した行動が取れるようになります。

継続的なプロセスの見直しと改善

インシデント管理プロセスは、一度構築したら終わりではありません。ビジネス環境やITシステムの変更、組織の変化に合わせて、常に最適な状態を維持する必要があります。そのためには、プロセスを定期的に評価し、継続的に改善していく仕組み(PDCAサイクル)を組み込むことが不可欠です。

プロセスの有効性を客観的に評価するために、以下のようなKPI(重要業績評価指標)を設定し、定期的に測定・分析しましょう。

  • 平均解決時間(MTTR): インシデント発生から解決までの平均時間。短縮を目指します。
  • 初回解決率(FCR): サービスデスクがエスカレーションなしで解決できたインシデントの割合。高いほど効率的です。
  • SLA遵守率: サービスレベル合意(SLA)で定められた目標時間内に対応できたインシデントの割合。

これらのKPIを基に月次や四半期ごとにレビュー会議を実施し、目標未達の原因分析やプロセスの課題点を洗い出します。そして、改善策を立案(Plan)、実行(Do)、評価(Check)、改善(Act)というPDCAサイクルを回し続けることで、インシデント管理の成熟度を継続的に高めていくことができます。

再発防止に向けた問題管理プロセスへの連携

インシデント管理の主目的は「サービスの迅速な復旧」であり、根本的な原因の解決までは求められません。そのため、同じ原因によるインシデントが繰り返し発生する可能性があります。サービスの安定性を真に向上させるためには、インシデントの暫定的な復旧だけでなく、根本原因を追究し恒久対策を講じる「問題管理」プロセスへと連携させることが重要です。

特に、事業への影響が大きい重大なインシデントや、発生頻度の高いインシデントについては、対応完了後に「問題」として正式に起票し、問題管理プロセスに引き継ぎます。問題管理プロセスでは、以下の活動が行われます。

  1. 根本原因分析(RCA): なぜそのインシデントが発生したのか、技術的な要因だけでなく、プロセスや人的な要因も含めて深く掘り下げ、真の原因を特定します。
  2. 恒久対策の策定と実施: 特定された根本原因を取り除くための恒久的な解決策を立案します。この対策は、システムの修正やプロセスの変更などを伴う場合が多いため、変更管理プロセスと連携して慎重に実施されます。
  3. ナレッジの蓄積: 分析した根本原因や実施した恒久対策は、ナレッジベース(既知のエラーデータベース:KEDB)に記録します。これにより、将来同様の事象が発生した際に迅速な特定と対応が可能になるだけでなく、組織全体の知識資産として蓄積されます。

このように、インシデント管理を「その場しのぎの対応」で終わらせず、問題管理と連携させて再発防止に繋げることで、組織はインシデントに強い安定したITサービスを提供できるようになるのです。

まとめ

本記事では、インシデント管理の目的と重要性、具体的な7つの手順、そして管理を成功させるためのポイントについて、事例やテンプレートを交えながら解説しました。インシデントは予期せず発生し、その対応の質とスピードがビジネスの継続性や顧客からの信頼に直結します。そのため、サービスを迅速に正常な状態へ復旧させるインシデント管理は、現代の企業にとって不可欠なプロセスです。

効果的なインシデント管理を実現するためには、記事で紹介した「検知」から「クローズ」までの一連のプロセスを組織内で標準化することが結論として挙げられます。SLAに基づいた優先順位付けや明確なエスカレーションルールを定めることで、対応の属人化を防ぎ、一貫したサービス品質を保つことができます。

また、Excelなど手動での管理には限界があるため、対応の迅速化、情報共有の円滑化、ナレッジの蓄積といった観点から、ITサービス管理ツールを導入することが極めて有効な手段です。インシデント対応で得た知見は、再発防止を目的とする「問題管理」プロセスへと連携させることが重要です。

ぜひ本記事で紹介した手順や報告書テンプレートを参考に、自社のインシデント管理体制を見直し、ビジネスを安定的に成長させるための基盤を強化してください。

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〒108-0073東京都港区三田1-2-22 東洋ビル

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